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この間の環と時子の小話の続き、ラブラブ (かどうかは微妙な) 短期間同棲生活のお話です。
長めな上に、非常にバカバカしく、なおかつ、下品です。やっぱりね……。
お読みいただける場合は、なるべく広い心でお願いします。
[つづきはこちら] からどうぞ。

   

   
      ***



 入院中の祖母と環は、いつの間にか二人で相談し、「これ以上時子に一人暮らしをさせるとマズい」 という結論に至ったらしい。
 一体、何がどうマズイのか。子供じゃあるまいし、自分で自分の面倒くらい見られるわよと時子はおかんむりだったのだが、二人の口から代わる代わる出てきたのは、「倒れる」、「栄養失調になる」、「ガリガリに痩せる」、「飢え死にする」 という、おもに食事方面についてのことばかりだった。自分は環と祖母からこの手のことにまったく信頼を得られていない、ということが判明して、ますます面白くない。
 確かに料理は苦手だし、好きでもないが、この時代、一歩家から出れば外食産業が溢れているのだし、コンビニやスーパーに行けば弁当や総菜がずらりと並んでいる。料理しなくたって不便なことなんてあるはずがない。大丈夫だってば、と何度も言い張ったのに、環も祖母も時子の言い分を完全にスルーして、二人で勝手にどんどん段取りを決めてしまっていた。
「そんなわけで、明日から俺がお前の家に泊まり込むから」
 と、ある日突然、環にそう言われ、時子は驚いた。
 寝耳に水なんですけど、「そんなわけで」 って何? ベッドの祖母に目をやると、ニコニコ笑って頷いている。
「えっ、環君がうちに泊まり込むって、つまり一緒に住むってこと? ねえちょっと、環君、おばあちゃん、知ってる? 未婚の男女が一つ屋根の下で寝起きするのは、ふつう、『同棲』 って呼ばれるものなんだよ」
「まあ、『同棲時代』 ね。楽しそうでいいわねえー、時子」
 祖母は朗らかに笑ったまま、そう言った。もともとこういったことに寛大な性質とはいえ、だからって朗らかにそんなこと言っちゃっていいのか。同棲時代、っていうのは確か昔の映画のタイトルか何かだったと思うが、さすがに時子も詳細は知らない。でもなんとなく響きが少々エロくさい気がする。時子はガラにもなく顔を赤らめた。
「逢坂さんが退院するまでだから、同棲時代っていうよりは、同棲週間ですかね」
 一方、環のほうは、まるで照れる素振りもない。口にしているのは、愛鳥週間、とか、週間天気予報、とか、そんな感じと大差ない。「あら、確かにね」 と噴き出す祖母と、和やかに今後の予定なんかを話している。
「………………」
 時子がムカムカしたのは、乙女として、まったくもっともなことだと思う。
 環に恥じらいなんかを期待しているわけではないが、それでももうちょっとなにかしら、照れとか、きまり悪さとかがあってもいいではないか。なにその、いかにも 「大したことじゃない」 みたいな顔と態度。これじゃ、「同棲」 というよりは 「合宿」 みたいなノリである。どうなの、それは。目の前の恋人に対して。
 ひょっとして、環の過去には一度や二度、他の女性とそんなようなこともあったのかもしれない。そこを詮索するつもりはないし、気にするつもりもない。つもりはないが、だからって、そんななんでもない態度で素通りしてもらいたくもない。「同棲」 の言葉に少なからず動揺している自分がバカみたいではないか。
 環がくるりと時子を振り向いた。
「じゃあトキ、明日仕事が終わったら、適当に着替え詰めて家に行くからな。メシは作ってやるから、俺が行くまで何もするなよ。間違っても、自分で包丁を持とうとか無謀なことをするんじゃないぞ」
「………………」
 環が悪い、とこの場に鈴鹿がいたら、そう断定してくれたことだろう。
 この瞬間、完全にヘソを曲げた時子が、ろくでもない決意を立てることになったのは、女心というものをちっとも理解しない環が悪い、と。


 --絶対、環君に恥ずかしい思いをさせてやる!


      ***


 そんなわけで、翌日わずかばかりの自分の身の回りの荷物と共に、逢坂家にやって来た環を出迎えたのは、「おかえりなさーい、環君ー!」 という時子のわざとらしく甘ったるい笑顔と声と、お決まりのこのセリフだった。
「お仕事お疲れさまー。お食事になさるー?(作るのは環なのだが)、お風呂になさるー? それとも」
 私ー? と言い終わる前に、頭にぽんと手を置かれた。
「お前を食うのは、あと。まずはメシを作るから手伝え」
「…………」
 ぴた、と時子の笑顔が止まる。何気ない口調でさらっとすごいことを言われて赤面したのは時子の方で、すたすた台所へと向かう環の背中は、まったく憎たらしいほど、いつも通りだった。
 時子は赤い顔で、きいっと怒った。
「もう、環君のバカバカバカ! 私だってけっこう恥ずかしかったんだからー!」
「だったら言わなきゃいいのに」
 まったくその通り。


 しかし、時子はそんなことでメゲるような性格ではない。
 食事の準備を手際よく進める環の周りをちょろちょろと邪魔して手伝いながら、一般的に男性が照れくさくなると思われるようなことを言ってみた。
「こうしてると、新婚みたいねー」
 とか、
「台所に立つ環君の姿って、格好良くて惚れ直しちゃう」
 とかだ。
 ちょっとくらい赤くなって、「バーカ」 とか言ってくれれば時子はそれで満足だったのに、環はてんで動じなかった。
 ジャガイモの皮を剥きながら、そうだな、とか、そうか、とか、しゃらっとした返事が返ってくる。口元がいかにも笑いを堪えているように微妙な角度で上がっているのも腹立たしい。なんなの、そのオトナの余裕っぷり。まるで時子が子供みたいじゃないか。いや、行動の動機は子供そのものなのだが。
 環がそんななので、もとはつまらない意地だったのに、負けるもんか、と時子の闘志は漲る一方である。いろいろと間違っている、という点はさておいて。
「トキ、エプロンした方がいいんじゃないか。服が汚れるぞ」
 勢いよく水道から飛沫を散らせて野菜を洗っている時、環に注意をされて、時子はにっこり振り向いた。
「裸にエプロン、とか?」
 その品のない冗談 (のつもりだった) に、しかし、環はやっぱり照れてはくれなかった。
「やってくれるのか?」
「…………」
 真顔で問われ、「……スミマセン、冗談です」 とこちらも真顔で謝っておく。さすがに時子だって、最低限の節度と羞恥心くらいは持ち合わせている。
 頬を染め、むくれながらエプロンを取りに行く時子の後ろで、環の噴き出す音が聞こえた。
 もー、悔しいったらない。


 そんな調子で、完全に 「甘い同棲生活」 からかけ離れたところで奮闘していた時子だったが、もちろんそれなりに、照れくささはあるに決まっている。環のアパートに泊まったことは何度もあるが、環が自分の家に泊まっていくことは初めてだ。夕飯の後、居間で新聞を読んで寛ぐ環の姿なんかを見ると、なんとなく落ち着かないというか、そわそわするというか。
 なので、
「環君、お風呂沸いたよ。どうぞ」
 環にそう声をかけてから、
「なんでしたら、お背中流しましょうか、旦那さま」
 と笑いながら、また余計なことを付け加えたのは、環の照れるところを見たいというよりは、どちらかといえば、自分の照れ隠し、という意味のほうがずっと大きかった。
 そりゃそうでしょ、かなりあけすけに下ネタなんかを口にして鈴鹿に怒られたりする時子だって、まだ大学生の女の子なんだから。これまでみたいに、環が笑いを堪えながら、旦那さまってなんだよ、とか言ってくれるものだと思い込んで、ふざけて言ったに過ぎなかったのだ。
 が。
 環は、ちらっと新聞から時子のほうに視線を寄越すと、
「そうか。じゃあ」
 と、おもむろに座っていたソファから立ち上がった。
「…………は?」
 時子はぽかんとした。
 ……「じゃあ」 って何? ていうか、なぜ真っ直ぐこっちに向かってくる?
「俺のアパートの狭い風呂と違って、ここなら二人でも入れそうだしな」
 環、再びの真顔である。しかも、さっきと違って目がマジである。時子は固まった。
「…………。えーと、あのね、環君」
「背中を流してくれるんだろ?」
「うん、ごめん、冗談です。心の底から軽口です。私のいつものアレです。聞き流してくれて全然オッケーです」
「トキはもう成人なんだから、自分の発言には責任を持たないとな」
「今、思いっきり後悔してる。もう言わない。スミマセン。以後、口を慎みます。そんなわけで、どうぞ一人でごゆっくり」
「そんなに身構えなくても、手荒なことはしないって」
「いや環君、その言い回しがもうすでにおかしいから、って、わ!」
 いきなり環に担ぎあげられ、短い悲鳴を上げた。環は時子を肩に乗せたまま、本当に浴室に向かって歩いていく。
 ええー、本気?! と焦り、時子は真っ赤になって抵抗した。
「ちょちょちょっと、環君、冗談だってば! ちょっとだけ環君の照れるところが見てみたかっただけだってばー!」
 どう考えても、最初からずっと恥ずかしい思いをさせられているのは時子の方なのだが、環はあっさり、「俺だって照れてるぞ」 と、全然照れていない顔で言った。
「ウソばっかり!」
「本当だって。トキと風呂に入るのは初めてだからな。何しようかな、とかいろいろ考えると」
「ななな、何ってなに?! お風呂はふつう、気分よくお湯につかるだけのもんだよ!」
「気持ちよく?」
「き・ぶ・ん・よ・く! 勝手に変換しない! 環君のバカー! さっきから、絶対判ってて遊んでるでしょ!」
「そりゃそうだ」
 そう言って、もう我慢ならない、というように、環が珍しく声を立てて笑った。
「トキと一緒に暮らすのは、ホントに楽しいよな」
 次は何を言いだすんだろうなあ、と笑いながら呟くのを耳にして、環はけっこう大人げない人間であったのだと、時子はこの時 (と、この後)、つくづく思い知った。



         (おわり)





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