せっかくバレンタインなので、オマケ小話をもうひとつ。
時期としては、本編の 「Finale」 が終わったちょっと後の話です。
小話というわりにやっぱり長いのですが、二つに分けるのも面倒なのでそのまま載せます。読みにくかったらすみません。
バレンタインだからって、イチャイチャしたものを想像してはいけませんよー。(世良と南編よりもさらに)
[つづきはこちら] からどうぞ。
時期としては、本編の 「Finale」 が終わったちょっと後の話です。
小話というわりにやっぱり長いのですが、二つに分けるのも面倒なのでそのまま載せます。読みにくかったらすみません。
バレンタインだからって、イチャイチャしたものを想像してはいけませんよー。(世良と南編よりもさらに)
[つづきはこちら] からどうぞ。
***
拓海と鏡花が付き合いはじめたのは、昨年の春だった。
つまり今年迎える二月十四日は、二人が 「恋人同士」 となってから、はじめて迎えるバレンタインデー、ということになる。
拓海と鏡花は昔からしょっちゅう時間を共に過ごした幼馴染ではあるけれど、子供同士の他愛ないやり取りとしてもこの日に鏡花からチョコを貰ったことはなかった。小学校高学年くらいになったらほとんど接触を絶ってしまったのだから、なおさらだ。
つまり、だ。つまり、今年のバレンタインは正真正銘、可愛く恥じらう鏡花から愛の告白と共に (というのは拓海の願望だが)、チョコを手渡してもらえる最初の機会、ということになる。ずーっと好きで好きでたまらなかった、今だって最愛で唯一の彼女からである。
そりゃもう、拓海の気合の入れ方は尋常じゃなかった。
「そんなわけで、今日は俺の勝負の日なんだよ」
厳かにのたまう拓海に、友人二人の視線は思いきり冷たい。
「なにが勝負だ。鏡花さんがお前にチョコをくれるのなんて、判りきったことじゃねえか」
「なに言ってんの? 陽介。キョーカちゃんにチョコ貰えなかったら、俺泣いちゃうよ。問題はそこじゃないんだ」
陽介の言葉をばっさり切り捨てて、拓海は決然とした表情を浮かべる。大体において、この男がこんなキメ顔をする時、心の中で考えていることは非常~にくだらないことばっかしだ。
「じゃあ、何が問題なんだよ」
と、訊ねる宙人の目は、しっかり手元のマンガに向かっている。もうホントに真面目に聞く気はさらさらないのだった。拓海と鏡花の二人のことに、まともに付き合うとバカを見る、ということは、宙人だって、さすがに学習してきているのである。
「だから」
と言いかけたところで、おーい拓海ー、と呼びかけられ、顔を向ける。
声の主はクラスメートの男子で、彼はいかにも面白くなさげな顔で教室のドア付近に立っていた。
「お前に用事だってさ」
ドアの向こうの廊下には、他のクラスの女の子二人が頬を染めてニコニコしながら立っている。拓海のところからでも、その手にピンク色のラッピングに包まれた物体があるのはちゃんと見えた。
「……問題はね、これだよ」
ため息をつきながら、拓海が椅子から立ち上がる。その瞳には、なみなみならぬ決意の色があった。
「俺はね、今年から絶対に、キョーカちゃん以外の誰からもチョコは貰わない、って決めたんだ」
「…………」
陽介と宙人が、思わず心の中で、死ね、と思ってしまったのも、無理はない。
小学校から中学校にかけての拓海のこの日といえば、ただもう機械的にひたすらチョコを受け取るばかりであった。断るのも面倒くさい、という、怠惰かつ無神経極まりない理由からだ。
相手が誰かもよく知らず、上級生か下級生かさえ興味なく、ありがと、と適当に貰っておくのだが、最終的に両手では持ちきれないほどの量になるそのチョコは、すべて、学校帰りに友人たちに押しつけられた。
こんなにいっぱい持っていけないし、どれが誰からのものかも覚えてないし、と他の男子が思わず殺意を抱くようなことを平然と言って、そうして陽介あたりから、「このサイテー男!」 と罵られる。それが今までの拓海にとっての、バレンタインデー、というものだった。
だが、今年は違う。
拓海は朝からひっきりなしに訪れる女の子たちに、なるべく誠実な態度で対応し、悪いけど、と差し出されるチョコを断り続けた。
不満そうにする子もいれば、悲しそうな顔をする子もいて、その相手を続けるのはさすがに精神が消耗する。バレンタインって疲れるなあ、と思わずげんなりと弱音を吐きだしても、だーれも同意してくれる人間はいない。孤独な闘いなのだった。
しかし、敵もさるもの。面と向かって差し出すチョコは断られる、と女の子たちはその敏感な情報網でキャッチしたのか、昼休みあたりから、教室にやって来る人数はぐっと減ったものの、その代わり、黙って置いていかれるチョコの数が増えた。
ある時は机の上に、ある時はロッカーの中に、ある時はどうやったんだか拓海の鞄の中に、ひっそりと、そして幾つものチョコの姿があるのを見たら、そもそも愛想笑いで疲労してきている拓海の頬だって引き攣るしかない。ほんの十秒ほど席を外しただけで机の中にチョコが三つも入っているのを見つけた時は、貧血を起こして倒れそうになった。なにこの敗北感。
--で、結局、放課後には。
拓海の手には、二十個近いチョコが存在していた。これから鏡花のクラスに行こうと思っているのに、どうすんだ、これ、と青くなる。
「さあ、帰るか」
「今日も何事もない、平和な一日だったなあ」
半ばヤケクソのようにそう言って、陽介と宙人はさっさと拓海を置き去りにして帰ろうとしている。拓海は縋るようにがしっと二人を捕まえた。
「お願い、これ持って帰って」
「やなこった」
「頼むよ、友達だろ?!」
「時々、お前と友達なのが、心底イヤになる」
「そのまま捨ててもいいから」
「このサイテー男!!」
罵倒する友人たちの手に、それぞれ無理やりのようにチョコを押しつけて、ようやくほっとしながら拓海は鏡花を迎えに行った。
「キョーカちゃん、帰ろー」
うん、と頷く鏡花の傍には当然のように和葉がいるわけだが、すでに肩の荷を下ろして上機嫌の拓海は気にしない。もう頭の中は、キョーカちゃん、どんなチョコをくれるのかなあー、ということでいっぱいだ。
キョーカちゃんは照れ屋だから、和葉さんがいる前では渡しにくいかな、じゃあ二人になった時に渡されるのかな、チョコをくれる時、キョーカちゃんはどんな顔をしてるのかな、とウキウキしながら考える。
……が。
頭を花畑にした拓海は、自分の靴箱に行き、そこにあるものを見て卒倒しそうになった。
それは当然、予想しておかなければならなかったかもしれない。けどさあ、けど、手紙とかならいざしらず、ものは一応食べ物ではないか。なにもこんなぎっちりと、スニーカーの中にまで押し込むようにして入れなくたって。
その数、七個。ラッキーセブンだ、と拓海は真っ白になった思考で、はははと虚ろに笑ってみた。
はっと我に返り、その七個のチョコを抱え、拓海は慌てて周囲を見回した。誰か押しつける相手はいないか、と思ったわけなのだが、かえってそれがマズかった。
「ああーら、たっくさん貰っちゃったのねえ~」
感嘆するような声は、必要以上にでかい。
絶望と共にそちらに視線をやると、この上なく楽しそうな和葉と、相変わらず表情の変わらない鏡花が、こちらを見ている。
「え、いや、これはさ」
「なあに、こんな所でそんなもの出しちゃって。もしかして鏡花に自慢でもするつもりだったのかしら。俺こんなに貰っちゃったよー、なんつって」
「ち、違」
「それとも鏡花にヤキモチでも焼かせたいのかしら。やーねー、そういう手段で、彼女の愛情を試すような男って、サイアクよね」
そう言って、和葉はうろたえる拓海を非難するように見た。この悪魔、絶対わざとに決まってる。
「こんなにあるなら、わざわざ鏡花がチョコをあげる必要もないんじゃない?」
「じょ、冗談でしょ」
本日一日の拓海の苦労をすべて無にするような和葉の発言に、拓海はぎょっとした。
鏡花なら、真に受けて 「そうかな」 などと言い出しかねない。本気で慌ててぶんぶんと手を振って弁解する。なんで俺、自分が悪いことしたわけでもないのにこんなことしてんだろ、と心中湧き上がる疑問はとりあえず棚上げだ。
「キョーカちゃん、そんなこと絶対にないからね! 俺、本当に本心から欲しいのはキョーカちゃんのチョコだけなんだからね! ヤキモチとかそりゃ焼いてもらったら嬉しいけど別にそんなつもりもないからね! お願いだからチョコください!」
最後はもう、なりふり構わない懇願である。バレンタインとは本来、こんなものではないはずなのだが。
「…………」
鏡花は拓海の手の中のチョコを見て、拓海の悲痛な顔を見て、それから眉を下げた。
「ごめん。……ない」
「へ」
間の抜けた一言と共に、拓海は固まった。
--ない?
五秒くらいして、ようやくその言葉が認識できた途端、今日一日ずっと鏡花のチョコを手に入れるため疲労困憊した拓海の頭は、もう限界を迎えてしまったらしい。要するに、プッツンきてしまったのだ。
くるりと背を向けると、
「わーん、キョーカちゃんのバカバカバカーっっ!!」
と、まるで幼児みたいな言葉を残して、その場から走り去ってしまった。止める間もない。
「え、拓海……」
脱兎のごとく小さくなっていく拓海の後ろ姿を茫然と見送りつつ、鏡花が呟く。
「……家に置いてあるから、あとから届けに行くね、って言おうと思ったんだけど……」
もちろん、和葉はお腹が痛くなるまで大笑いした。
(おわり)
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