「Be mine」完結後にいただいたコメントに、「続編は?」という、大変ありがたいお言葉がありまして。本当にもう、嬉しくてホロリとしてしまいます。
それで、続々編はあるかどうか自分でもちょっと判らないのですが、この前に書いた「ブログ小話」を、早速ためしてみようかな、と思いついた次第です。番外編として本編ページに置くほどのものでもない、軽くて短い内容なんですけど。
ただ、短い、といっても私基準の「短い」なので、文字が小さくて幅も狭いブログに全部いっぺんに載せるのは少々憚られる量があり、二つに分けたいと思います。
お読みくださるという方は、下にある、[つづきはこちら] からどうぞ。
バレンタインだからって、決して、イチャイチャしたものを想像してはいけませんよ。
それで、続々編はあるかどうか自分でもちょっと判らないのですが、この前に書いた「ブログ小話」を、早速ためしてみようかな、と思いついた次第です。番外編として本編ページに置くほどのものでもない、軽くて短い内容なんですけど。
ただ、短い、といっても私基準の「短い」なので、文字が小さくて幅も狭いブログに全部いっぺんに載せるのは少々憚られる量があり、二つに分けたいと思います。
お読みくださるという方は、下にある、[つづきはこちら] からどうぞ。
バレンタインだからって、決して、イチャイチャしたものを想像してはいけませんよ。
***
「……の、野間さん……」
フラフラとした足取りでやってきた南は、なんだかものすごく顔色が悪かった。
「ど、どうしたのよ、南。具合でも悪いの?」
あたしは驚いて座っていた自分の椅子から立ち上がり、代わりに南を座らせる。その傍らで足を折り、その顔を覗き込むと、そこにあるのはどこか茫然自失したような表情だった。
「ぐ……具合は悪くないんですが、頭がクラクラして、胸の動悸が激しくて、目の前が真っ暗になるような気分です」
「それを一般には 『具合が悪い』 っていうのよ」
そう返しつつ、あたしはこの状態の南をどうするべきか、素早く頭を巡らせた。
保健室に連れて行くとしても、こんな調子でちゃんと立って歩けるのか心許ない。あたしが手を貸しても、途中で倒れたりしたら大変だ。しかしまさかタンカで運ぶわけにもいかないし。そうするとやっぱり、ここはまず、職員室にひとっ走りして、先生に伝えに行ったほうがいいのだろうか。
などと考えていると、南がうな垂れながら、ポツリと呟いた。
「せ、世良君が」
「は? 世良?」
なんでここにその名前が出てくるのかと訝って、あたしはやっと、ピンときた。
つまり、南のこの変調は、身体機能の異常からきているものではないのだ。
「世良が、なにしたのよ」
つい厳しい口調になって問い詰める。返答によってはただじゃおかないわ、とあたしは闘志をみなぎらせた。当然、「ただじゃおかない」 対象は、世良のほうに決まっている。
この時、あたしの頭に浮かんだのはこの三つだ。
つまり、世良が--
① 死んだ
② 浮気した
③ ナニかした
これらの可能性を思い浮かべると同時に、あたしの目は、ちょうどブラリと教室に入ってくる世良の姿を捉えた。なるほど、①はない、と冷静に消去する。
ちょっと考え、②も今の時点ではないだろうなあ、とこれも捨てた。世良は軽い男ではあるけれど、あれで南に対してだけは誠実であることは知っている。
すると③ね、とあたしはキラリと目を光らせた。
まあ最初から、その可能性がいちばん高いだろうとは思っていたんだけどさ。この場合、「ナニか」 っていうのは、男女の間のアレとかコレのことだ、もちろん。
「……ま、遅かれ早かれ、こういうことがあるのは判ってたわけだけど。それにしたって、白昼堂々、学校内でフラチな真似に及ぶなんて、なんてガマンのきかない男なのかしら。発情期のサルかっつーのよ。まあ、南もさ、ショックだったとは思うけど--」
「は、はい、ショックです」
南は青い顔で、肩をすぼめている。あたしはなんだかすごく可哀想になってしまった。世良のやつ、許さん、と義憤に燃えながら、小さな肩に手を置く。
「そうよね。でも、まあ、ああいう男を選んだ時点でこういうことは予想されることで」
「私、考え違いをしていたんです」
「うん、確かに世良は南を大事にはしてると思うけど、やっぱりソレとコレとは別っていうのが男ってもんでさ」
「てっきり、世良君はそういうのが好きじゃないだろうと思ってました」
「え、そんなわけはないと思うんだけど。そもそも、高校生男子って、そういうことばっかり考えてるって聞くし」
「だから私も、市販品でいいんだろうなって、安心してたんです」
「はい?」
ここであたしは、慰めるようにぽんぽんと南の肩を軽く叩いていた自分の手を、ピタリと止めた。
「……市販品?」
あのう、とあたしはおそるおそる、再び南の顔を覗き込む。南はすでに泣きそうだった。
「……あの、なんの話?」
「ですから、チョコレートです」
「はい?」
あたしはもう一度間抜けな反問を繰り返した。
南がぱっと顔を上げ、悲鳴のような声を出す。
「世良君、バレンタインのチョコは、絶対に手作りじゃないとイヤだって言うんです……!」
「この世の終わりみたいな顔」、とはこういうのを指すのだな、とあたしはその顔を見て思った。
「…………」
しばらくの間を置いて、あたしはなんとか気を取り直すことに成功した。えらい、えらいぞ、自分。
「……そっか。うん、じゃあ、頑張って作っ」
「無理です」
南の返事は、打てば響くような即答だ。
「私の手作りチョコなんて食べたら、世良君はお腹を壊すか、体調を崩すか、死んでしまいます」
「…………」
ここでもやっぱり、世良の死亡は可能性の一つに含まれるらしい。
「あのね南、よっぽど難しいのに挑戦しなきゃ、チョコなんてわりと簡単よ? 大体、お菓子なんて、本の通りに分量はかって、本の通りの手順で進めれば、それなりのものが出来るようになってるんだから」
「野間さん、知ってますか」
南は、真っ黒で大きな目をこちらに向けた。その瞳は悲しみに満ち満ちている。
「本を見て、その通りに作ったはずの私のクッキーは消し炭みたいな黒焦げの物体になり、ケーキはスポンジが一切膨らまずにその上歯が折れそうなほど固く、逆にババロアはちっとも固まることなく型から出した途端に溶岩みたいに流れ出しました」
「…………」
「なぜでしょう」
ホント、なぜでしょう。
南は生き方もわりと不器用だけれど、手先もかなり不器用だ。入試の時、南の成績ならもっと上のレベルの高校にも行けたのに、ペーパーテストでもカバーしきれない、家庭科と体育と美術の低得点が響いたという話も聞く。
そしてその上厄介なことに、一つのことに熱中すると他のことは忘れがちになるという性質も持っている。その性質は、勉強をする時以外の方面では、あまり役には立たないらしいのだった。
南は顔を両手で覆い、その指の隙間から、あーとかうーとか苦悶の呻き声を漏らし続けている。
やれやれと思いつつ、あたしが顔を巡らせてみると、友達と談笑している世良が視界に入った。
その顔が、ふいにこっちを向く。
あたしと目を合わせ、世良は、とても綺麗ににっこりと笑って見せた。
(2)へ続く
「……の、野間さん……」
フラフラとした足取りでやってきた南は、なんだかものすごく顔色が悪かった。
「ど、どうしたのよ、南。具合でも悪いの?」
あたしは驚いて座っていた自分の椅子から立ち上がり、代わりに南を座らせる。その傍らで足を折り、その顔を覗き込むと、そこにあるのはどこか茫然自失したような表情だった。
「ぐ……具合は悪くないんですが、頭がクラクラして、胸の動悸が激しくて、目の前が真っ暗になるような気分です」
「それを一般には 『具合が悪い』 っていうのよ」
そう返しつつ、あたしはこの状態の南をどうするべきか、素早く頭を巡らせた。
保健室に連れて行くとしても、こんな調子でちゃんと立って歩けるのか心許ない。あたしが手を貸しても、途中で倒れたりしたら大変だ。しかしまさかタンカで運ぶわけにもいかないし。そうするとやっぱり、ここはまず、職員室にひとっ走りして、先生に伝えに行ったほうがいいのだろうか。
などと考えていると、南がうな垂れながら、ポツリと呟いた。
「せ、世良君が」
「は? 世良?」
なんでここにその名前が出てくるのかと訝って、あたしはやっと、ピンときた。
つまり、南のこの変調は、身体機能の異常からきているものではないのだ。
「世良が、なにしたのよ」
つい厳しい口調になって問い詰める。返答によってはただじゃおかないわ、とあたしは闘志をみなぎらせた。当然、「ただじゃおかない」 対象は、世良のほうに決まっている。
この時、あたしの頭に浮かんだのはこの三つだ。
つまり、世良が--
① 死んだ
② 浮気した
③ ナニかした
これらの可能性を思い浮かべると同時に、あたしの目は、ちょうどブラリと教室に入ってくる世良の姿を捉えた。なるほど、①はない、と冷静に消去する。
ちょっと考え、②も今の時点ではないだろうなあ、とこれも捨てた。世良は軽い男ではあるけれど、あれで南に対してだけは誠実であることは知っている。
すると③ね、とあたしはキラリと目を光らせた。
まあ最初から、その可能性がいちばん高いだろうとは思っていたんだけどさ。この場合、「ナニか」 っていうのは、男女の間のアレとかコレのことだ、もちろん。
「……ま、遅かれ早かれ、こういうことがあるのは判ってたわけだけど。それにしたって、白昼堂々、学校内でフラチな真似に及ぶなんて、なんてガマンのきかない男なのかしら。発情期のサルかっつーのよ。まあ、南もさ、ショックだったとは思うけど--」
「は、はい、ショックです」
南は青い顔で、肩をすぼめている。あたしはなんだかすごく可哀想になってしまった。世良のやつ、許さん、と義憤に燃えながら、小さな肩に手を置く。
「そうよね。でも、まあ、ああいう男を選んだ時点でこういうことは予想されることで」
「私、考え違いをしていたんです」
「うん、確かに世良は南を大事にはしてると思うけど、やっぱりソレとコレとは別っていうのが男ってもんでさ」
「てっきり、世良君はそういうのが好きじゃないだろうと思ってました」
「え、そんなわけはないと思うんだけど。そもそも、高校生男子って、そういうことばっかり考えてるって聞くし」
「だから私も、市販品でいいんだろうなって、安心してたんです」
「はい?」
ここであたしは、慰めるようにぽんぽんと南の肩を軽く叩いていた自分の手を、ピタリと止めた。
「……市販品?」
あのう、とあたしはおそるおそる、再び南の顔を覗き込む。南はすでに泣きそうだった。
「……あの、なんの話?」
「ですから、チョコレートです」
「はい?」
あたしはもう一度間抜けな反問を繰り返した。
南がぱっと顔を上げ、悲鳴のような声を出す。
「世良君、バレンタインのチョコは、絶対に手作りじゃないとイヤだって言うんです……!」
「この世の終わりみたいな顔」、とはこういうのを指すのだな、とあたしはその顔を見て思った。
「…………」
しばらくの間を置いて、あたしはなんとか気を取り直すことに成功した。えらい、えらいぞ、自分。
「……そっか。うん、じゃあ、頑張って作っ」
「無理です」
南の返事は、打てば響くような即答だ。
「私の手作りチョコなんて食べたら、世良君はお腹を壊すか、体調を崩すか、死んでしまいます」
「…………」
ここでもやっぱり、世良の死亡は可能性の一つに含まれるらしい。
「あのね南、よっぽど難しいのに挑戦しなきゃ、チョコなんてわりと簡単よ? 大体、お菓子なんて、本の通りに分量はかって、本の通りの手順で進めれば、それなりのものが出来るようになってるんだから」
「野間さん、知ってますか」
南は、真っ黒で大きな目をこちらに向けた。その瞳は悲しみに満ち満ちている。
「本を見て、その通りに作ったはずの私のクッキーは消し炭みたいな黒焦げの物体になり、ケーキはスポンジが一切膨らまずにその上歯が折れそうなほど固く、逆にババロアはちっとも固まることなく型から出した途端に溶岩みたいに流れ出しました」
「…………」
「なぜでしょう」
ホント、なぜでしょう。
南は生き方もわりと不器用だけれど、手先もかなり不器用だ。入試の時、南の成績ならもっと上のレベルの高校にも行けたのに、ペーパーテストでもカバーしきれない、家庭科と体育と美術の低得点が響いたという話も聞く。
そしてその上厄介なことに、一つのことに熱中すると他のことは忘れがちになるという性質も持っている。その性質は、勉強をする時以外の方面では、あまり役には立たないらしいのだった。
南は顔を両手で覆い、その指の隙間から、あーとかうーとか苦悶の呻き声を漏らし続けている。
やれやれと思いつつ、あたしが顔を巡らせてみると、友達と談笑している世良が視界に入った。
その顔が、ふいにこっちを向く。
あたしと目を合わせ、世良は、とても綺麗ににっこりと笑って見せた。
(2)へ続く
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